1998 市原尚士 "読売新聞"
「架空の図書館」が出現! 〜「本への思い」絡ませ〜

 金沢や東京、京都などに住む若手美術作家7人が、それぞれ「本への思い」を作品に絡めながら独自の表現活動をする。それによって、展示空間自体を「架空の図書館と」として観客の前に出現させてしまおうという美術展「THE LIBRARY KANAZAWA」がこのほど、金沢市大和町の市民芸術村アート工房で開かれた。
 金沢在住の山本基の作品「白書」を鑑賞すると、まず階段状の展示スペースに敷かれた赤い布が目に入る。この布を踏みしめて、上ってゆくと、4〜500キログラムの塩を固めて作った真っ白な斜面 が両わきに設置された地点までやってくる。それから先は、布も塩もない。「上りきった向こう側に広がる世界はどんな風景なのだろう」といった思いが浮かぶ。
 山本にとって、「塩とは生命の記憶そのものだ」という。血でも涙でも、海でも食べ物でも、人間にとって身近で大切なものは大抵、塩分と近しい関係にある。塩は人間の生命と実に深いつながりを持つのだ。 この人間にとって、最も確かな真理とは、「命ある者は必ず死ぬ」ということだろう。山本はこの命題の持つ意味や理由を徹底的に追及した上で、姿を消していった親しい存在に再び形を与えようとする。
 人間存在の痕跡を一粒の塩で表現し、この世界を計り知れない程、多くの塩の堆積したものであると見立てること。この時、塩を文字に、世界を本に言い換えても、見事に意味は通 るのだ。世界、存在、生と死。そんな抽象的な言葉に、自分なりに血や肉を与えたいと願う山本の真剣な姿勢が伝わる素晴らしい力作だ。
(中略)
 福本と山本だけでなく、ほかの5人の作品も非常に良かった。また、美術展を通 して異なる地域の作家の間にネットワークが生まれた点も大きな収穫だった。今後も、金沢で同様の試みが開催されることを希望したい。(文中敬称略)

市原尚士 



The library Kanazawa / 金沢市民芸術村、石川